勇者様トーナメント、アニス vs ヒュプノ。
ミリアの優勝によって勇者様トーナメントのブームに火がつき、世界各地で定期的に少女たちによる勇者トーナメントが開催されるようになっていた。
もっとも、多くの開催地では国による援助の許可が下りず、観客から高額な入場料を徴収することで運営費を賄っていた。
それに伴い、観客たちの要望を取り入れるため、栄誉ある勇者の選定よりも、選手たちの痴態を楽しむことに重きを置いたトーナメントも決して少なくなかった。
これはそんなトーナメントのうちの一戦の光景である。
「赤の門より、アニス選手入場! アニス選手は若くして各地でお尋ね者のモンスターを討伐しており、その目にも留まらぬ剣捌きには定評があります!」
赤い門を開いて現れたのは、白い鎧に身を包み、白銀の剣を構えた小さな少女だった。
「青の門より、ヒュプノ選手入場! 経歴に謎の多い選手ですが、不思議な術を使うと噂されております!」
青い門を開いて現れたのは、アニスとは対照的に黒いローブに身を包んだ、20代前半くらいの女性である。
アニスと違って、こちらは武器を持たずに素手である。
「それでは、試合開始!」
合図と共に、アニスとヒュプノは闘技場の中央で向き合う。
「ねえねえ、ボク相手に素手で勝てると思ってるの? おばさん」
剣を構えて挑発を投げかけたのはアニスの方であった。
「大丈夫よ、子供相手に武器を使うなんて大人気ないしね。 ところで、言葉遣いには気をつけなさいって幼稚園では習わなかったのかしら?」
落ち着いた口調で返すヒュプノだが、内心は怒っているようだった。
「ふーん、子供相手だと思って舐めてかかったら、恥ずかしい目にあわせちゃうよ!」
突然アニスが風のようなスピードで剣を振るい、あまりの速さに肘から先が見えなくなる。
「きゃっ……! あら、なんともない……?」
驚いて身構えるヒュプノだったが、別にどこも斬られた様子はなかった。
「なんだ、大したことないじゃない……これだから子供は……」
ほっとして胸を張ると、突然着ていたローブが裂ける音が響き渡り、ヒュプノの胸の辺りが丸見えになってしまった。
「え……きゃぁっ!?」
慌てて両手で胸を隠すヒュプノ。
「ふふん、ボクのスピードを思い知った? おばさんの老眼じゃ全然見えなかったでしょ?」
アニスは得意そうにしている。
「うう……よくもやってくれたわね。私の目を見なさい!」
突然ヒュプノがアニスを睨みつけると、アニスの顔から表情が消え、ぴくりとも動かなくなってしまった。
それを見てヒュプノはゆっくりとアニスに近寄る。
「ふふ……これが私の力、『催眠術』よ……アニス、聞こえる?」
「うん……」
ヒュプノに声をかけられるとアニスはぼーっとした表情のままうなずく。
「もう君にとって、私の命令は絶対なの。たっぷりと観客の皆さんの前で恥をかかせてあげるわ。わかった?」
「うん……」
「ふふふ……そうね。アニスちゃん、このトーナメントのルールを答えてみなさい」
「うん……このトーナメントは、全部脱がされたら負け……」
「そうじゃないわよ……本当のルールは、『全部脱いだほうが勝ち』でしょ? このトーナメントは、いかに早く裸になって観客の皆さんに見てもらうかの勝負なんだから」
ヒュプノは催眠術を使って、アニスの頭の中にあるルールを書き換えていく。
「うん……そうだった。全部脱いだら、勝ち……」
ヒュプノによって嘘のルールを信じ込まされたアニスは、素直に返事をしてうなずく。
「その通りよ。じゃあ、私が手を叩いたら目を覚まして、そのルールに従って勝ちましょう?」
ヒュプノが両手を叩いて鳴らすと、アニスは目を覚ました。
「ん、あ、あれ……?」
「アニスちゃん、いいの? ぼーっとしてたら、私はこのままローブを脱いで裸になっちゃうよ」
きょろきょろあたりを見回すアニスに対して、ヒュプノは自分のローブを脱ごうとするふりをする。
「あ……。 そうだ、脱いだほうが勝ちなんだっけ……だけど、おばさんじゃボクのスピードには勝てないよ!」
慌ててアニスは剣を拾い上げると、目にも留まらぬスピードで振るい、そのまま剣を捨てると観客席のほうを向いて胸を張って叫ぶ。
「みんな、ボクの裸を見て!」
次の瞬間、仁王立ちしているアニスの鎧に無数の亀裂が走ったかと思うと、一瞬にして中に着ていた服ごと細切れに刻まれ、重力にしたがってリングの上に散らばっていく。
アニスは誇らしげな笑顔を浮かべながら、観客全員に自分の小さい胸や毛が生えていない股間を見せつけていた。
「ふふ、やっぱり子供っぽい体をしているのね。じゃあ、術を解いてあげるわ」
ヒュプノが指を鳴らすと突然アニスは正気に戻り、真っ赤になる。
「え……きゃああ!?」
『アニス、全裸確認。勝者ヒュプノ』
裸のままその場にへたり込み、同時にアニスの負けが宣言されてしまう。
「う、うそだ……ボクがこんなおばさんなんかに負けるなんて……」
悔しそうに目に涙を浮かべて相手を睨みつけるアニス。
「何度も人をおばさん呼ばわりするような子には、もっと厳しい罰が必要かしら?」
再三の発言に怒ってヒュプノがアニスの目を覗き込むと、突然アニスの体が意思に反して勝手に動き出し、立ち上がった。
「え、あれ? やだ、体が止まらない……!」
アニスの両手がばんざいするように上にあがると、裸を隠すこともできずに闘技場の出口に向かって足が動き出す。
「さあ、そのまま闘技場の外に出て、観客だけじゃなくて街中の皆さんにその子供っぽい体を見てもらいなさい。1時間くらいしたら私の術は自然に解けるわ」
「や、やだやだー! お願い、止まってー!」
結局魔法が自然に解けるまで1時間もの間、アニスは街の人たち全員に裸を見せつけながら歩き、有名人になってしまったのだった。
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