勇者さまトーナメント外伝〜エルフと召喚師。
勇者さまトーナメント。
真の勇者を決めるために開催されたこのトーナメントにミリアと呼ばれる少女が優勝した事は、記憶に新しい。
その噂はミリアの住む国のみならず、海を渡った隣の国にまで響いていた。
そして、その国もまた、同じように勇者を決める手段に困っていたのだ。
その結果。
勇者さまトーナメントは、国を渡って開催される事になった。
 
 
 
闘技場。
観客が円を成して見守るその中心に、二人の女性が対峙する。
 
一人は耳が尖っている。人間ではない事が分かる。
金髪をポニーテールにしたグラマラスな美女で、右手には剣、左手には短い杖を握っている。
動きやすそうな服の上に軽い革の鎧を纏い、身軽さを重視した装備である事が伺える。
 
「白の門より入場、ハーフエルフのエルス選手! ソードとメイスの二刀流で有名な彼女ですが、つい先日、かのテンダロス迷宮を制覇したとの報告がありました! その剣技は大陸随一と言われております!」
 
もう一人は、爪先から頭のてっぺんまで黒いローブで覆い、フードを目深に被った人影。かろうじて女性と判断できるのは、ローブの胸にあたる部分がうっすらと膨らんでいるからだ。
比較的露出の多い格好を好む冒険者の中にあって、この女性は肌を一切外に見せていない。
フードからはみ出るのは、波打った輝く銀髪。
 
「黒の門より入場しますのは、召喚師のルイン選手! 様々な精霊と契約を交わし、ついには氷の女王まで召喚してしまうようになった伝説の召喚師! こちらもその魔術は大陸随一と言われております!」
 
 
 
「それでは、試合開始ィ!」
 
宣言されるやいなや、エルスは地面を蹴ってルインへと肉薄する。
これは試合だ。言葉を交わす道理などない。
そう思い、無防備なルインへと剣を繰り出した所で――――エルスは、全力でその場から飛び退いた。
次の瞬間、エルスの居た場所を、凄まじい冷気の嵐が襲う。
 
「あら残念。そう簡単には決まってくれないのね」
逃したか。運のいいエルフだ
 
呟いたのはルインの他に、もう一人。
召喚師の肩付近に、ぞっとするような美女が漂っていた。
吸い込まれそうなほどに青い髪と瞳に、雪の結晶を連想させる衣装。見かけは普通の人間と変わらないが、魔力の量が桁違いだった。
「氷の女王……………いつの間に」
「気付かなかったのかしら? のろまさんなエルフだこと」
歯噛みしながら、エルスは右腕をさする。
完全には躱しきれなかったのか、その部分の鎧と服は凍り付いていた。
 
ふん……………まぁよい。精々足掻けよエルフ
 
パチン、と氷の女王が指を鳴らすと、凍り付いていた部分の鎧と服が粉々に砕け散った。
炎の精霊の加護を受けている剣は砕かれずに済んだが、エルスの右腕の肩口から指先までの素肌が外気に晒される。
 
「ちっ……………! だが女王とは言っても、所詮は氷の精霊。炎の加護を受けた私が劣る道理などない!」
「思い上がらないでくれる? これだからエルフは……………素っ裸にして、氷漬けにして、愉快なオブジェに変えてあげるわ」
「ほざけっ!」
 
再びルインへと走るエルスだが、その進路に氷の女王が立ちふさがる。
 
先ほどの発言は、失言だったな小娘。我を貶すとどうなるか、その身にしっかり刻んでやろう
 
言うや、氷の女王から放たれた氷の嵐がエルスを襲う。
咄嗟に回避しようとするエルスだが、不意にその足が何者かによって拘束されている事に気付く。
見れば、地面に現れた魔法陣からのびた骨の腕が、エルスの足を掴んでいるではないか。
「召喚魔法……………ッ」
「私が戦えないと言った覚えなんかないわよ?」
実質、2対1か。
そんな事を考えるエルスを、非情な冷気の嵐が襲う。
咄嗟に剣に宿る炎の精霊の加護を発動させ、なんとか腰から上だけは守る事が出来た。が、下半身の鎧と服は、下着ごと氷漬けになってしまう。
「……………っ!!」
ハッとした表情で解凍しようとするエルスだが、遅い。
氷の女王が再び指を鳴らす。
それを合図に、エルスの下半身の衣服と鎧、下着は、粉々に砕け散ってしまった。
いきなり素っ裸にされ、外気に晒される下半身。髪と同じ金色の、少し濃いめの陰毛が衆目に晒され、観客は大歓声を上げた。
「くっ!!」
上半身は鎧を付けているのに下半身は素っ裸という、無様な格好になってしまったエルスは、悔しげな声を上げて両手で股間を隠す。その顔は羞恥と怒りで真っ赤になっていた。
「ふふ、いい格好になったじゃない。でも隠すなんてもったいないわ、もっとみんなに見てもらわないと」
「っ、誰が!」
膝は震え、両手で股間を覆いながらも、エルスの目はまだ闘志を失ってはいない。
紅い切れ長の瞳は、真っ直ぐに氷の女王と、ルインを見つめている。
余興は終わりだ。そろそろ閉幕としよう
そう言いながら、氷の女王がエルスに顔を近付ける。ぞっとするような美貌を間近に感じながらも、エルスの瞳は鋭いままだった。
女王の指が上半身に触れようかとする刹那、エルスは意を決した。
剣とメイスを手放す。
股間を隠していた腕で女王の腕を掴む。突然の事と、女が羞恥を押し殺して反撃に出たという事で驚き、女王は反応できない。

「はぁっ!」
ほれぼれするほど見事な一本背負いが炸裂した。
これまで優雅な雰囲気を保っていた女王も、思わず大股で投げ飛ばされる。地面に叩き付けられた衝撃でドレスがめくれ上がり、華を模したであろう青いTバックのパンティが丸出しになった。
「え、えっ?」
「まだだ! 炎の精霊よ、彼の者の纒いし物を焼き尽くせ!」
女王が地面に伸び、ルインが戸惑っている隙に、エルスは傍らに落ちていたメイスを拾う。そして、炎の魔法を発動させた。その対象は、下着丸出しで地面に倒れている氷の女王。
なっ?
まさか自分がこんな目に遭うとは予想もしていなかったのだろう。氷の女王は何が何だか分からないと言った表情で、そのドレスと扇情的な下着を魔法により燃やし尽くされていく。
あとに残ったのはもはや氷の女王などではなく、大股開きで呆然と横たわる全裸の哀れな女性だけ。
なっ……………やぁぁぁぁっ!?
やがて事実を認識したのか、精霊の頂点に立つ者とは思えない程黄色い悲鳴を上げ、その身を縮こまらせる。青白い頬を羞恥の赤が染めた。
こ……………このような辱めを、我が……………っ!
「見下すからそういう目に遭うんだ、女王」
杖を握っていない片手で股間を隠しながら、エルスはそう言った。
 
「こ、こんなの嘘よ! 氷の女王が負ける訳……………」
目の前の光景をルインは信じられないといった面持ちで見ていた。
今までどんな強敵をも屠ってきた氷の女王が、今は身に纏うもの全てを焼かれて素っ裸にされ、羞恥に震えている。
それを成したエルフの視線が、今度はルインへと向く。
――――全裸にされたら負け。
それが、勇者さまトーナメントのルール。
思わずルインは後ずさった。
「い、いや、来ないでっ!」
必死にガイコツの剣士を召喚するが、数々の迷宮を突破したエルスがその程度で止まるハズがない。
右手に握った剣を一振りするだけで、猛烈な風圧が巻き起こり、ガイコツを全て吹き飛ばしてしまう。
その余波は当然、ルインにも及ぶ。
顔を覆う事で精一杯だった彼女は、足下まで覆う自分のローブが風圧で腰までめくれ上がっていた事に気付かなかった。
「――――ほう、案外質素な下着を履いているのだな」
そう言われて、慌ててルインはローブを抑えるが、既に観客や対戦相手に色々と見られてしまった後だ。
ぺたん、とエルスの裸足の足音が着々と近付いてくる。
氷の女王という切り札を失った彼女にとって、もはやそれは脱衣の死神に他ならなかった。
「こ、来ないで! 脱がさないでぇっ!」
「そうもいかん。何、一思いに済ませる……………とでも言うと思ったか」
ヒュン、と剣が風を斬る。
それだけでルインのフードは切り刻まれ、素顔が露になった。エルスに勝るとも劣らない美貌に、観客は息をのむ。
「貴様はエルフを侮辱した。私を辱めた。相応の報いは受けてもらうぞ」
言い、エルスはルインのローブの裾を掴む。完全に戦意を砕かれた彼女は、抵抗らしい抵抗すらできない。
そして、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
エルスはルインのローブをまくり上げ、頭のてっぺんで結ぶ、いわゆる巾着縛りの格好をさせた。豪奢な黒いローブに不釣り合いな、どこにでもあるような純白の下着が丸出しになり、ルインは己のローブの中でもがく。が、バランスを崩し、転倒してしまった。
そのルインの下着を、エルスはおもむろに掴み、
「ふんっ」
「え」
はぎ取った。もがくルインの足首とブーツから器用に抜き取ると、それをエルスはなんと自分で履く。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! か、返して!」
「断る。さて、これで隠す必要もなくなったな」
剣とメイスを脇に置き、エルスは両手の指をわきわきさせる。
「さあ、その身体を衆目に晒すがいい!」
そう言って、エルスはルインのローブを強引にはぎ取る。
直前まで地面に尻餅を付く形でもがいていたルインだが、突然視界が晴れた事に驚く。
が、それも一瞬。自分がブラジャーとブーツしか身につけていないと知ると、壮絶な勢いで顔を真っ赤にした。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 見ないで、見ないでぇっ!」
「ふはは怖かろう。しかし恐れるのはまだ早い。今からじっくりと――――」
エルスの言葉はそこで途切れた。
背後から吹き荒れた猛烈な冷気が、彼女の衣服を今度こそ全て凍り付かせ、粉々に砕いてしまったからだ。
それは上半身の服と鎧はもちろん、ルインから奪った下着まで砕く。
優勢になって油断していたエルスは、突然全裸にさせられた事実に、しばし仁王立ちのまま硬直してしまう。吹いた風に、豊満な乳房と豊富な陰毛が少し揺れる。
その光景をしゃがみこんで身体を隠しながら見ていたルインは、エルスの背後にしゃがみこんだまま片手を突き出す氷の女王と目が合った。
こ、このエルフ風情が……………! 我の身を晒した罪は重いぞ!
「な、なんだと!?」
慌てて身体を隠そうとするが、氷の女王の方が早かった。
大気中の水分を凝固させて作った縄が蛇のように動き、エルスは両手を縛られ、片足を縛られて逆さ吊りの格好にされてしまった。
当然縛られていない方の脚は重力に従っているので、エルスの股間はよじれて、全てが丸出しになってしまっている。豊満な胸も乳房も、重力によって垂れ下がる。
「う、うぁっ! そんな、こんな事が………………!」
「しょ、勝負あったわねエルフ。これで貴女は全裸、私たちの勝ちよ!」
打ち捨ててあったローブを急いで着込みながら、ルインは勝ち誇る。
 
「エルス、全裸確認。勝者、召喚師ルイン!」
ナレーターの声が響き渡り、エルスの敗北が宣言される。
 
「く、うう……………そんな、馬鹿な……………」
「当然の結果ね。………………さて、これからどうしようかしら」
呟いたルインの言葉に、未だ全裸で宙ぶらりん状態のエルスの表情が固まる。
「ば、馬鹿を言うな、勝負はもう……………」
「ええ、ついたわ。でもね、こんな言葉を知ってる?」
ルインは銀髪を靡かせ、全裸で無様な格好をさせられている羞恥とこれからされるであろう行為の恐怖に震えるエルスに言い放った。
「敗者に、人権はないわよ」
結局その後、勇者さまトーナメントが終わるまでの間エルスはそのままの姿勢で闘技場に残され、数日に渡って全裸を観衆に晒し、悪い意味で有名になってしまった。
 
 

 
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