プロローグ・マリエル。
満月が輝く夜――
林の中、こじんまりとした修道院。
ステンドグラスの大きな窓、
厳かな雰囲気をかもし出している。
修道服を着た8人の少女達はそこにこっそりと集った。
少女らは月明かりに照らされた魔法陣を囲んでいる。
一人、ロングヘアの修道女が口を開く。
「皆様、今夜も頑張って天使様を召喚しましょう」
『はい、一同、思いは同じです』
そして祝言(呪文の一種)を唱え始める。
『−−神ありし、人ありし、天使の橋わたしありし−−……』
『−−我が祈りに応え姿を現し給え』
こうして−−
天使マリエルが教会に舞い降りた。
薄く白い羽衣を身にまとった小柄な女性の天使。
「天使マリエル、神の使者としてただ今地上に降り立ちました」
軽やかにポーズを決めると、体格に似合わない程大きな胸がふるりと弾む。
『−−ま、マリエル様ぁ!』
修道女達は目を輝かせながらマリエルの登場を喜ぶ。
「フフ、こんばんは、子羊ちゃんたち。またこんな夜更けに呼び出して。悪い子はお仕置きですよ?」
茶目っ気たっぷりに挨拶をするマリエル。
『きゃー、マリエル様さまぁ。よくお越しくださいました!』
修道女たちは憧れの目をもってマリエルを見つめる。
リーダー格のロングヘアの女の子が、
「……マリエル様、トーナメントに参加されるという噂はほんとうでしょうか?」
「うんー、皇女様のご命令で優勝して来なさいって」
ざわざわ……
「マリエル様があんな野蛮な大会に出場する必要なんて……」
納得出来ない様な顔をする一同。
「魔女の手から人間たちを守るにはゆうしゃになる必要があるんだよー。特にあなた達子羊を守りたいから」
『マリエル様……』少女たちが感激していると、
そのうちひとり、ショートヘアの少女が手帳を取り出して、
「あのっ、マリエル様、御朱印をお願いします」とおねだりをする。
「あ、ぬけがけ。マリエル様、私もー」と、ウェーブがかかった髪の子が続く。
「はいはい、押さないで。天使のボクも手は2本しかないからー」
マリエル様は羽ペンを取り出し、嫌な顔一つせずに丁寧にサインしています。
「ま、マリエル様、握手お願いできますか?」
ポニーテールの女の子がおずおずと手を出す。
「はい。もちろんいいですよ」
緊張がちに出された手に指を絡めて握手をすると
「ほわ……」ポニーテールの子の顔が赤くなる。
今度はウェーブ掛かった髪の子が
「あのっ、マリエル様、マフラー編んで来ました。もしよければどうぞ」
「わー、ありがとー。嬉しいよ」天使は笑顔でもらったマフラーを抱きしめる。
「マリエル様、好き!」お団子頭の子が急にマリエルを抱きしめる。
「ひゃー、ちょっと」慌てるマリエル。
『マリエル様ー、マリエル様ー』周りの子もマリエルに抱きつく。
「わ、わー。」
もみくちゃにされるマリエル。
ふと見ると、少し離れたところで見つめるおかっぱの少女が出遅れたみたいで立ち尽くしてる。
マリエルはおいでおいでと目配せをする。
「マリエル様ー」ぎゅーと飛び込んでくる。
『マリエル様大好きー』
翌日、8人の少女に見送られマリエルはトーナメントの会場へと足を運ぶ。