お姫様と数人の侍女、そしてマーサマーニャとお嬢様との団らん。
「マーサマーニャさん、お見事でした。 トーナメントを見事勝ち抜き新たな勇者となりました」
お姫様はメイドの勝利をたたえ、
「しばらく旅支度を整え、準備ができましたら平和のために旅立ってください」と述べた。
「……そのことなのですが姫様、出発の期間にご猶予を頂けませんでしょうか」
「それはなぜですか」
お姫様が問い返します。
「こちらの、お嬢様との、主従関係の契約期間が終わっておりませんので務め上げてしまいたいのです」
「ああ、そのことですか。 あなたの本当の契約者、つまりそこのお嬢さんのお父上と話はついています。 報酬もお渡し済みですわ」
「え……? つまり、お父様はマーサマーニャを売ったの……?」
お嬢様は初耳だとばかり口にする。
「し、しかしまだお嬢様をほおって置くわけには……、まとも、いえ立派な人間にするためにはもうしばし時間を頂きく存じます……」
マーサマーニャはお姫様に頼み込む。
「あなたは、民の期待を裏切るつもりですか?」
お姫様は少し強い口調でマーサマーニャをたしなめた。
「そういうわけではありません。2年、いえ1年の猶予を頂けましたら」
「ふぅ……わかりましたわ、あなたの意思がそれほど強いというのでしたら。……リーン例のものを」
「はい、フロンリーフ様」
お姫さまは侍女に声をかけ、侍女は大切そうに小さな箱をお姫様に持ってこさせる。
「ゆうしゃさん、これを」
お姫様はペンダントをマーサマーニャの首にかける。マーサマーニャは恭しくペンダントを頂く。
「王家に伝わる聖なるペンダントです……裏を見てください」
マーサマーニャはペンダントの裏に書いてある言葉を口に出す。
「……『ごちそうさま』……??」
言い終わった途端、マーサマーニャの身に着けている服、メイド服+下着が消失した。
つまり、瞬時にすっぱだかに。
「え、え、えっ???」
マーサマーニャは何が起きたかわからず裸を隠すことも出来ないほど混乱している。
「はい。見ての通りですわ。 ペンダントの裏に書かれている言葉を口にすると身に着けている全ての衣服が消滅します」
「きゃあっ!!」
説明を受けようやくマーサマーニャの頭が現実を理解し悲鳴を上げる。
恥ずかしそうに真っ赤にした表情で、腕で胸とあそこを隠す。
「ゆうしゃさんに衣服を」
「はい、お姫様」
リーンや他の侍女が高価そうなドレスを持ってきた。
丁寧な手つきでマーサマーニャを着せ替えた。
「ペンダントのNGワードは衣服を着る度に変わります。
その日、あなたの言いそうな言葉になるそうですよ」
お姫様は人事のように述べる。
ペンダントの裏には『このペンダントは外れない』と書かれている。
「え、『このペンダントは外れない』のですか?!」マーサマーニャは驚いて口に出してしまう。
「あ……いやぁん」
「ふふふふ。素直なお人ですね」
お姫さまは、またしても全裸になったマーサマーニャを視界にいれながら、
「ええ、神の魔法がかかっているそうで。 外して欲しければ魔女のひとりも倒して来てください」
翌日――
マーサマーニャは旅立ちの準備をしていた。
「マーサマーニャ、早くなさい、行ーくーよ!」
外から大きな声で呼びかけられる。
「しょうしょうお待ち頂けますか、お嬢様〜」
お嬢様と相談し、結局マーサマーニャは旅立つことに決めた。
例のペンダントがあると日常生活に支障が出ると思ったからだ。
そして、お嬢様も冒険についてくることにしたらしい。
「だって。あたしがマーサマーニャと一緒にいるためにはこうするしかないじゃない?」
お嬢様は少し口を尖らせながら言ったが、素直に自分の気持ちのようだ。
マーサマーニャとしてはお嬢様を危険に巻き込みたくなかったが、
旦那様との契約が切れてしまった以上、彼女の意思に強固に反対することは出来なかった。
二人が街の出口を向かおうとすると
さながらパレードのように人だかりが集まってきた。
彼らは口々に新しいゆうしゃの門出を一目見ようと群がっていたのだ。
『がんばれよー!』『ゆうしゃさまー!』『メイドちゃんかわいい!』
『マーサマーニャちゃんこっち向いてー!』『魔女なんてやっつけてくれー!!』
大勢の民が、さながらパレードのように道の両端に集まっていた。
「国民の期待」という意味を少し理解したマーサマーニャ。
しかし、メイドの彼女にとって誰かのために何かをすることはとても喜ばしい行為である。
道の両側に作られた人々の応援の心に、彼女はだんだん気持ちが高ぶってくるのを感じた。
「みなさん、応援有り難うございます! わたくしマーサマーニャ、『行って参ります』!!」
お嬢様がはっとした顔を見せ「マーサマーニャだめ……」
「え……きゃああん!」
脱衣のペンダントが発動した。
実は今日のNGキーワードは『行って参ります』だったのだ。
マーサマーニャは出掛けに何度も何度も確認して
その言葉を言わないように注意していたのだが、舞い上がってしまいつい口に出してしまった。
「えーんっ。 お嬢様、恥ずかしいです。 早く! 早く参りましょう!」
マーサマーニャはお嬢様の手をガシ掴むと、揺れる胸を片手で抑え抱きかかえ駆けていく。
両端から、先程まで以上に大きな声援を受けながら。
世界の平和を掴みに。