微かな細い光が、姫のブローチから光が零れていた。最後の守りが姫自身だった。
ミリアは、白馬に乗り、眠りの城に挑もうとしていた。
蔦が絡もうとしたが、楯と剣で攻防する。
切られていく、葦は地面に落ちると枯れていく。最初から、幻影だと云わんばかりに。
所詮、女の力である。体力は消耗し、汗が零れる。
それでも、怯まずに馬を走らせる。
城の崩壊が始まりつつある。
ミリアは力が弱まりつつあるのを感じた。
(勇者さま、助けて……)
ある思考が流れ込んできた。
美しい声だ。この先に進めば、姫に会える。
共鳴するものがあれば、微弱な力でも互いに呼ぶことができる。
(もう、わたしにはあなたしか居ない。もう、持っているものを全部捨ててきた)
ミリアは、泣きそうな気持ちを押し殺しながら、風に刹那問いかける。
(わたしの使命は、あなたを守ることだった)
どこで、間違えてしまったのだろう。
最初から夢であったと問いかけてしまいたいとミリアは思う。
美しい夢。狂気の夢。一体、ミリアに与えられているのはどっちだろう。
血。何万という血さえいとわない。乙女たちの鮮血が立ち上る瞬間に出会った。
ルルが泣いている。
ここに来る前に別れてきた。優しい魔法使いは、まだミリアに想念を送り、負けないように取り計る。
時計の針が一秒を刻み、心臓の音がバクバクと高鳴っても勝てるとは限らない。
大きな悪意に似た想念は、魔女を生み出した。
最初は、砂漠がいつからかでき、徐々に城まで押し寄せることから始まる。
生贄に捧げられた姫は、眠りの城で、魔王の手から逃れるかのように、城壁を閉じた。
魔王は、ひび割れた手をしながら、砂塵を巻き上げ、黒い煙を身に纏う。小癪な小娘に、魔法を使われ、片腕が千切れた。普通なら数秒後に元に戻るのに、微かに腐りはじめていた。
魔王が歩くたびに紫の血が飛び散り、砂山を青く染め抜く。
ミリアは、どこまで走ればいいのだろうか、どこまで進めばいいのだろうかと思う。女の細い腕は、非力に投げ出されまま、暗黒物質を輝く剣で突き刺さなければならない。幻のように、実像のない魔王の肉体を、この手で裂くことはできるのか? 様々な疑問符が沸き起こる。
この闇を照らす一陣の光は、ミリアの中に内在する力だった。 勇者は、その名のもとに、水晶で出来た剣を引き継ぎ、継承していく。
資質のないものは、剣を引継ぐときに、刃の力により命を落とすものもいると聞く。
ミリアは、剣を持つ手に力を込める。
呼応するかのように、剣は一際輝き始めている。
ミリアの白馬は、両前足を高らかに上げ、津波のような砂漠地帯を走っていく。
ミリアは、やがて走るのをやめた。そして、砂山も隆起しなくなった。
「疲れたかしら、全力投球して」
なんだか、数か月前のわずかから、わたしの見える世界が変わってしまった。犯罪も増え、わたしは誰かから助けてもらいたかった。
だから、助けてと云った。
『誰でもいいから数か月前の普通の状態に戻して……』
fin