コルエットとルル。
「あれ・・・、薬草百科大事典の9巻がない。あっ、12巻と13巻も・・・」
ルルは王立図書館に来ていた。冒険中に必要になる薬学の知識を蓄えるための勉強だ。
薬草百科大事典は、全28巻のフルカラー。積み上げればルルの背丈近くもある。王立百科事典編纂委員会総勢30と余人が20年の歳月を費やして作り上げた大作である。当然背表紙に禁帯出のシールが貼られている。誰かが館内で閲覧中なのだろうか。
「あら・・・、あなた薬草百科大事典をお探しなの?」
背後から涼やかな声がした。
振り向くとすらっとした女性がルルの視界に入る。
わあ、きれいな人なのです・・・。ルルが目を瞠る。
透き通る肌は熟練の陶工の手によるかのようだ。長く揃った睫毛。切れ長なまぶた、通った鼻筋、紅玉のように煌く唇、長く繊細な指先。渓谷の流れのような黒髪はつややかに腰まで届いている。
大人の雰囲気を漂わせてはいるが、それは決してエロティックなものではなく、あくまで清冽なものだ。内側から醸し出される一種独特の雰囲気には、女のルルでもはっとさせられてしまう。
「え、ええ、9巻と12巻と13巻がないのです。どなたか閲覧中なのかと思うのですが」
多少どぎまぎしてルルが答える。図書館にいられるのはスケジュールの都合上、今日が最後だ。明日にはまた旅に出なければならない。
「薬草百科大事典なら、書斎に揃ってますわ。よかったらわたくしの家にいらっしゃらない?お茶くらいご馳走いたしましてよ」
ルルの心配を察したのか、彼女が清流のせせらぎのような声でルルを誘う。
「えっ、本当ですか?しかし、お邪魔しちゃ悪いですし・・・」
もしすぐに閲覧が可能なのであれば、願ったりかなったり、渡りに船とはこのことだ。
「遠慮はなさらなくてよろしいのよ」
彼女がにっこりと笑う。
 
「わああああああ!!コ、コルエットさん、すごい本がいっぱいありますねー!」
ルルの瞳にきらきら星がいくつも光る。
「ほほほ。いえいえ、とんでもありませんわ。少ししか蔵書がなくてお恥ずかしい限りです」
彼女の書斎は高い天井まで壁一面が本棚になっており、マニア垂涎の稀少本を含む高価な専門書がぎっしりと詰まっていた。
彼女はコルエットと名乗った。財産家だった旦那を亡くしたあとは、読書をして過ごす毎日なのだという。
「薬草百科大事典はこちらですわ」
コルエットが棚から事典を半分引き抜いて場所を示す。
「お茶をお持ちしますわ。コーヒーと紅茶、どちらがお好みです?」
振り返りつつコルエットが尋ねる。
「あ、紅茶をお願いします。何から何まで悪いのです」
ルルはテーブルに事典を開いて熱心にノートをとりだす。色刷りの薬草は本から今にも飛び出してきそうだ。生息地帯、採集可能時期、特徴はもちろんのこと、主な調合方法までが詳細に書かれている。さらには調合の正引き逆引き、クロスリファレンスまで完璧だ。
「ルルちゃん、お茶が入りましたわよ」
夢中になってメモを取っていて、背後からコルエットがドアを開けたのにも気づかなかった。
「ありがとうございます。とても勉強になります」
目を輝かせ上気した顔のルルが言う。
「さあ、一息つきましょう」
コルエットが優雅な仕草でルルにクッキーと紅茶を勧める。ルルが事典に視線を注ぎながら、一口紅茶をすする。突然ルルの口の中いっぱいに紅茶の香りが広がった。
「なっなにこれっ!おいしい!!」
いま口に含んだ紅茶は、これまでに飲んだいかなる紅茶よりも味わい深く素敵な香りを放っていた。
「紅茶とは思えないくらいまろやかです。茶葉はどちらで入手されたものですか?」
「すぐそこの市場で手に入れた他愛もない茶葉ですわ。違いがあるとすれば淹れ方かしら。紅茶って淹れ方ひとつでずいぶん味わいが異なるものなのですよ」
ルルには、今飲んでいる紅茶は超高級品にしか思えない。
「よかったら淹れ方を教えて差し上げましょうか?」
「はいっ、ぜひぜひ」
紅茶党のルルは、コルエットの話が謙遜にしか思えず、来た目的も忘れてコルエットについていく。
 
「薬草百科大事典をあんなに熱心に読みふけられるなんて、ずいぶんと勉強熱心なのね」
コルエットも一緒に紅茶を飲みながらルルに話しかける。
「はい、旅に必要なものですから。ミリアがずいぶんおっちょこちょいでよく困るのです。あ、ミリアっていうのは一緒に旅をしている仲間なんですけど、とても勇者だとは思えないのです」
「まあ、勇者様と一緒に旅をしているのですか?」
コルエットが目を丸くする。
「いえいえ、勇者といっても最近ようやく剣が使えるようになったかなってくらいの新米勇者ですから」
「あらまあ、そうなんですか。でも勇者様と一緒に旅をされるなんて道理でルルちゃんしっかりしてるわけですね」
「いえいえ、それはまあ、しっかりしないといけないようにさせられたというか、なんというか・・・」
普段より口数が多くなっているルル。
「お若いのにずいぶん厳しい旅をなさってるようですのね。寂しくなったりとかはしないんですか?」
心配するように尋ねるコルエット。
「いえ、寂しくなったりはしませんけど」
「本当に寂しくなることはない?」
コルエットがルルの背後に回りこみ、ルルの上半身をそっと抱きしめる。
「え、ええ。寂しくはありませんわ。ミリアもいますし」
どぎまぎしながらルルが答える。ルルのこめかみにうっすらと汗が滲む。紅茶で身体が温かくなっているところへ、コルエットに触れられたことと、微妙な質問が重なったからだ。
コルエットがルルのこめかみに軽くキスをする。
「あっ・・・」
鋭く声をあげるルル。
「嘘・・・ね。ルルさん、あなたは早くに母親を亡くして寂しさを紛らわせるためにいつも忙しくしている。そうでしょう?」
どうしてそれを!ルルが図星を指されて身体をこわばらせる。それはミリアも知らないことなのだ。
「不思議かしら。水には記憶があるのですわ。わたしはその水の記憶を引き出しただけ。大洋を流れる海流にも、地中から湧き出でる井戸水にもその歴史が刻まれてますのよ。人間の身体の60〜70%は水で構成されていて、その水にも同じように歴史が刻まれているのですわ」
ゆっくりと、ささやくように話すコルエット。
「ご安心なさって。寂しいときには甘えたらいいのですよ」
不意にルルの目に涙が浮かぶ。コルエットがルルのことを正しく理解していることを知ると、ルルは自分が赤ちゃんになったような気がした。胸のところで組み合わされているコルエットの両腕をルルは抱きよせ、彼女に身をゆだねる。
コルエットはルルの横に座りなおしルルの身体を抱きしめる。
「さあルルちゃん、あなたは今日はわたしの赤ちゃん。お洋服をぬぎぬぎしましょうね」
不思議とコルエットには何をされても信頼できる感じがする。
コルエットがルルの着衣の上下のボタンを全て外していく。続いてルルの下着の上下も脱がせ、素っ裸にしてしまう。
「あなたはいま、生まれたままの姿よ。何も恐れず赤ちゃんになればいいの」
鈴のような音色でコルエットがささやく。
「さあルルちゃん、あなたのことをもっと教えて」
裸のルルを抱き寄せ唇にキスするコルエット。コルエットはルルの唾液をすすりとる。
「ここにもキスしていいかしら」
ルルの胸を指し示すコルエット。ルルは真っ赤になったままだ。無言の肯定と判断したコルエットがルルの胸の先の尖りを口に含む。そのまままわりの汗をきれいに舐め取る。目をぎゅっと閉じて力をこめるルル。
「ルルちゃん。あなたとってもかわいらしいわ。ここも確認させてもらっていいかしら」
コルエットがルルの鼠蹊部に円をかくように撫でる。
「あっ、そこは汚いですわ」
ルルが恥ずかしさに身もだえする。声をあげるルルを無視して、ルルの脚の間に割り入って局部を舐めだすコルエット。
「ああーんっ!!!」
突然泣き出すルル。恥ずかしさと快感とコルエットへの思慕と敬愛の念が複雑に入り混じって、ルル自身何がなにやら分からなくなったのだ。コルエットはルルの中から新たにあふれ出す水を味わった。しゃくりあげ続けるルル。
「よしよし、ルルちゃん。わたしのおっぱい飲むかしら?」
コルエットが自らの胸を露出し、ルルの口に含ませる。無心にコルエットの胸を吸うルル。ルルはこの安心感を欲していたのだ。長い間コルエットの胸を涙を流しながら吸い続けていたルルはコルエットの胸に抱かれながら寝てしまった。
ルルが胸で寝入ってしまってもコルエットはずっとルルを抱きしめ続けていた。

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