プロローグ・リリム。
試合前日−−
 
 リリムは夜の街をコツコツと音をたて歩いていた。
 ショートカットの黒髪。服装は大胆な黒いレオタードに太もも丈のブーツ。
 隠してはいるが背中に黒い羽がはえている。
 
 「この中みたいね」
 ギィ……建物、街の酒場の扉を開け中へと入る。
 
 リリムはいわゆる人間の種族ではない。
 死神だ。
 死神は寿命が尽きた人間を地獄や天国へ送ることが主な役目だが、
 定められた寿命を伸ばしたり縮めたりする何らかの要因を排除することも
 重要な使命なのである。
 その要因とは、例えば悪霊。
 
 「−−お姉さんお姉さん、あなた悪霊にとりつかれてるわよ」
 
 リリムは店の女性に艶かしい笑顔を見せる。
 
 「な、なに」
 
 この女性から見ると、見も知らずで露出度の高い人に声をかけられたわけで
 いぶかしがるのが普通であろう。
 
 『なんだなんだ』野次馬がリリムを取り囲む。
 
 「お姉さん、近頃変わったことが起きていない?
  例えば……急に気分が悪くなったり、身体に異常が見受けられたり」
 
 リリムは目を細め女性の身体を見渡す。
 年は22、23だろうか、エプロンを身につけ
 髪を後ろに束ねている。一見平均的な体型だが胸は大きい目。
 
 「ど、どうしてそれを……あなたは一体……」
 彼女は確かに思い当たる点があった。
 近頃頻繁に身体がだるく感じたり逆に無性に暴れたくなることがある。
 
 「悪霊を払って欲しいよね?お願いしたら考えてあげるわよ」
 意地悪そうな笑顔を浮かべる。
 何もかもが見透かされているようなリリムにおののき返事に窮する。
 体調に異変が起きているのは本当のことだったので
 治るものなら直して欲しい。と彼女は思う。けど、
 リリムは続けて言う言葉に引っかかった。
 「お代は一晩。あたしと閨を共にしてもらえるなら」
 甘えた風にしなをつくる。
 「えっ……何を言っているのっ」戸惑う店員さん。
 「あのさ、お姉さん。耳の後ろに三日月のほくろがあるよね。
  放おっておくと、あなた3ヶ月で死ぬのよ」
 「……っ!」指摘され手でほくろを抑える店員。
 「あたしは、いま修行中でこっちにきてて。悪霊退治の義務があるわけじゃないんだけど……」
 ツカツカと店員に近づくリリム。
 「あなた次第」ガシッと手首を掴み捻り上げる。
 耳の後ろにはたしかに三日月のほくろが。
 「っっ! お、お願いします……助けて……」お姉さんは観念してリリムに助けを乞う。
 「いい子。必ずあたしがあなたを助けてあげるから」
 店員さんは優しい言葉を聞いて目に涙を浮かべた。
 リリムは「いただきます」を言ってから店員さんを抱きしめ、耳の後ろに舌を這わす。
 「えっ、やっ、ちょっ……」店員さんが抵抗する。
 リリムは彼女の腰に手を回し酒場のカウンターに彼女の背をつけるよう押し倒す。
 パリンッ 酒瓶が床に落ち割れた。
 リリムははむりと唇で耳を挟む。
 「っ……ぁっ」顔を真赤にした店員さんが小さくあえぐ。
 「……我慢しなっくていいわ」耳元で囁かれた言葉が頭に響く。
 耳を口でいたぶられ、また舌の先が這いまわりくちゅりと音を立てる。
 店員さんはその技法によりすでに抵抗不能に陥っていた。
 そのたびに、はぁ、はぁ、と甘い吐息が漏れて出る。
 「はふ……ンー……」
 ふいに、耳の穴の入り口にリリムの舌が当てられる。
 「ひっ、やっぁん、ま、まってくださ……!!!」
 ずぶ……
 「っ、ひっ、ぐっ……んんッ!!」
 奥へと貫かれ、体が軽く震えた。「……ッ!!」
 「……ご馳走様でした」リリムが口を拭う。
 
 同時に、不気味な化物が店員さんの中から追い出される。
 「うぎゃあああ、死神の小娘め、よくもやりやがったなっ」
 その化物は血走った目でリリムを睨みつける。
 「低級霊は逝っていいわ」
 リリムは自分の耳の中に魔法で小さく仕舞い込んでいた
 死神の大きな鎌を取り出し、
 両手で掴み、一刀のもとに低級霊を斬り捨ててた。
 
 「あたしの泊まっている宿よ。身体を綺麗にしてから来てー」
 リリムは店員さんにメモを渡し、帰っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 −−トントン
 
 覚悟を決めた表情の店員さんがリリムの部屋のドアを叩く。
 「待っていたわ。入ってー」
 カチャリ。
 「あの、先程は、ありがとうございました……それでそのお約束……」
 
 「お姉さん、あたし明日大切な用があってー。
  もう寝なくちゃいけなくって。あたしお寝坊だから。
  明日起こして。朝ごはんも作って……
  −−ふぁぁ」
 と可愛らしくあくびを一つ。
 
 「え、あ。はい」
 一方的に言われあっけにとられる店員さん。
 「お休みなさい」
 そして翌日リリムはトーナメント初戦を迎える。
 
 
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