プロローグ・マーサマーニャ。
一人の大人のメイドが、少女を追いかけている。
 
 メイド、マーサマーニャはゆうしゃ様トーナメントに出場するため、
 開催される街までやってきた。
 黒が基調のメイド服をきっちりと着こなしている。
 彼女は家事一般は勿論、武芸百般、博識で勤勉、文武問わず優秀である。
 中央王国はそんな彼女に勇者の素質を見出し、このゆうしゃ様トーナメントに参加するよう要請を出した。
 
 「お嬢様、お待ちになってください!」
 少女に追いつく。
 
 少女は、まだ胸も膨らみかけたくらいの年端。
 ピンクが基調の上品なフリルのついた可愛らしいワンピースを身につけている。
 
 「どーして、勝手にマーサマーニャが武道大会なんて出るのょ」
 明らかに不機嫌な目付きで振り返る。
 「何度も申しましたように……。旦那様のご命令です」
 メイドがそう答えると
 「あなた、いったい、だれのメイドなわけ?」
 ぷくーと頬を膨らませる。
 「そ、それはお嬢様のメイドです! ですが、契約は旦那様と結んでおりますし……立場的に……断るすべを持ち合わせておりません」
 メイドは罰が悪そう。
 「あ。結局、お金なんだー?! あたしより、お金が大好きなんでしょ!!!」
 お嬢様は大きな声で怒鳴りつける。
 「お、お嬢様? そんなことおっしゃらないでくださいっ。私はお嬢様を一番大切に思って……」
 切々と訴えるメイドさん。
 「ほんとにそう思ってる? もしそーだとしても、あたしにはその闘技会の見学もさせないって、どーーゆーーこと?!」
 つーんと、不機嫌が治らない
 「あのですね、それには別の理由が御座いまして。お嬢様にはまだ早いと存じますし……」口を滑らせる。
 「隠し事?」お嬢様の目がキラリ。「えっ、そのような……」
 「マーサマーニャは、あたしに隠し事をするんだ。やっぱり大人って……」
 プイと再び顔を背ける。
 「そ、そうでは御座いません。言葉通りお嬢様には教育上宜しくないことが……」
 メイドさんは機嫌を取り繕うと一生懸命である。
 「……? それって、つまり、えっちなこと?」
 「お嬢様!はしたない」慌ててお嬢様の口を抑えるマーサマーニャ。
 「もがもが……ちゃんと話しなさい!」
 「うぅ……承知しました。
  明日私の出場する、闘技大会のルールは、相手の衣服を全て剥ぎ取れば勝ちなのだと伺いました」
 「……ええっ!それって、それって。
  対戦相手に敗れたら、マーサマーニャ、すっぽんぽんにされちゃうってこと?」
 「お嬢様〜〜!!!!
  ご無体ですのでその様なはしたない言葉を口になさらないようお願い申し上げます。
  ……左様です。お嬢様にはふさわしくない場所で御座いまして……」
 「でもでもでもっ、人がいっぱい見に来る……よねぇ?」
 「え、ええ。そのようですね……」
 「マーサマーニャ、恥ずかしくない?」
 「……正直、非常に恥ずかしく感じますっ。旦那様の言いつけでなければ絶対に出場など、とうてい考えませんっ」
 お嬢様に問い詰められ、顔を赤くする。
 「……行く!」
 「はい?」
 「だから、あたし見に行くから、応援するから!」
 「えーーーー! い、いけませんっ。
  そんなこと旦那様に見つかれば私どれだけ大目玉を頂けますことか!」
 「マーサマーニャあ?……あなたの主人は誰?」
 「お、お嬢様です。
  いいえ、しかしこれとそれとは……」
 「……わー……。マーサマーニャが大勢の前で恥ずかしい格好にされちゃう〜〜って、考えただけでも何かとても楽しみ♪えへへ♪」
  両手を頬に当てて何かと妄想するお嬢様。
 「お嬢様??!」慌てるメイド。
 「マーサマーニャの○○○も、XXXもぉ、大勢の人に見られちゃう?」
 「わーわーわ!お嬢様、口になさってはいけませんーー!!」耳まで真っ赤にするメイドさん。
 「あ、でも、万が一勝っちゃうと、すっぽんぽんになったりしないよね?」
 「え、ええ。もちろん勝つつもりで闘いますし。。って想像なさらないように強くお願い致しますが!」
 いまにも泣き出しそうな表情のメイド。
 「……負けなさい。
  もしも優勝なんかしてみなさい。あたしがすっぽんぽんにしちゃうから!」
 「お、お嬢様、ほんとにいけません!
  そういうのに興味を持たれるのはまだ早いですから!
  うえええん、旦那様に叱られてしまいますー」
 「対戦相手はどんな人かなー、強かったらいいね?」と、とてもいい笑顔。
 「せめて、せめて!
  何とど、私を応援していただけませんか〜〜! お嬢様〜〜!!」
 本気で泣きつくメイドさんにも、お嬢様から出る言葉は非情な一言。
 
 「や!」
 
 
 
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